【あや】“なにもない”がある。




何かに吸い寄せられるように、


何かから逃げるように、


何かの圧を感じながら、



流れ着いた。




“なにもない”がある。この島に。





大好きな堤防に登って、
ずーと遠くを眺めてた。





大好きな堤防に登って、
ゴロンと空を見上げてた。





あの時の音と、背中のゴツゴツ感。





身体に沁みるくらい、覚えてた。







こっちにいると、
なんやかんやぼーとできなくて。
特にすることがなくても、
ずっとずーとぼーとできなくて、
いつもなんかしら考えてて、
別に考えなくてもいいことなのに、
ずっとずーと頭はぐるぐる回ってた。





でも、佐久島の
ゴツゴツしたところの上で
ゴロンと転がって、
ぼんやり空を見つめてる時は





ほんとうになんも考えなくて済んだ。





私の頭の中からなかなか離れない。
消えてほしいのに消えない人の呪縛から
解放されたように。





私の頭の中には誰もいなかった。






それが、ただ、ただ、幸せだった。






幸せだった。









島を離れて5時間。




 ゴロンと仰向けになると
あのひんやりとした背中のゴツゴツ感がなくて、
頭のところにはちゃんと枕があって、
虫が這ってくる心配もしなくていいけど、




あの心地よい波の音がなくて、
風の音がなくて、
潮の香りがなくて、






聞こえるのは機械音
あるのは電球と漫画

   







幸せだな〜って、感じていない。いま、私。

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